花園の墓守由為編第九章一話『由為が考えた世界の救い方』

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 由為は貴海の部屋で目を覚ましてから、こっそり抜け出て自分の部屋に戻ろうとしたときにきさらと出くわしてしまった。
 すでに朝の身支度を終えているらしいきさらは目を丸くしたあとに尋ねてきた。
「貴海さんと一緒に眠ってたの?」
「一人じゃないと眠れない年頃です。貴海先輩はファレンさんの部屋に行きました」
「あら」
 きさらは軽やかに笑い、意味のある視線をファレンの部屋に注いだ。そのあいだに自室へ戻ろうとするが声をかけられる。
「昨日は衛さんと七日さんと三人で大変だったのよ。あなたがいつまで経ってもでてこないから、探してみるとあの書館の二階で倒れていたって」
「面目ありません」
「そうね、だったら立場を作り直しましょう。由為さん。私たちに書館について教えてもらえるかしら」
 なかなか難しい注文をされた。由為も書館には貴海の許可をもらっているから入れる身だ。こっそりと教えたことが露見して鍵を取り換えられてしまうことや、書館の立ち入りを禁止されたら困る。悩んでいると書館に入って最初に読んだ冊子の内容を思い出した。
「書館は入らないと分からない場所ですから。口では説明できません」
「そう。なら、由為くんは何のために書館へ入りたかったのかしら」
「本に興味があったからですよ。此岸には教本とかはありますが、物語が記された本はないですから。きさらさんには言って無かったと思いますが、俺は違う空を見に彼岸に来ました。知らなかったことを知るために、書館が必要なんです」
 隠しているところはあるが、嘘も偽りもない主張にきさらは耳を傾けてくれた。仕方ないとばかりに微笑んだ。
「そういうことにしておきます。でもね、由為くん。あんまり一人でがんばりすぎたらだめよ。あなたの力になりたい、七日ちゃんと衛さん、私たちがいるんだから」
 もしかしたら、きさらは由為が何をしようとしているのかを知っているのではないか。一瞬だけ疑惑が頭をかすめた。そうだとしたら、きさらは心強い味方なのか対立する相手なのかも判断しなくてはならない。
「あの、きさらさんは花の役目を作り替えたり、細工したりできるんですよね」
「ええ。花を加工したりするのが私の仕事だったもの」
「……世界を変える花が必要になったら作ることを手伝ってもらえますか?」
 大胆にカードを切ってみた。
 由為は滅びを迎えつつある世界を救いたい。いまはまだ具体的な手段を見つけられていないが、確実に分かっていることとして、此岸も彼岸も花によって支えられている。おそらく両方を救うにも花の力が必要だとは踏んでいた。
 由為も変革はできるようになったが、貴海のように一人で花を自在に変えられる自信は無い。一人ではできない。
 花を調整できるきさらの助けは必要だ。
「場合によるわね。由為くんが世界を変える手段と目的を、どこまで私たちに明かしてくれるのか。その内容が信頼と信用するに足るか。私を動かしたかったら結構な手土産がいるわよ」
「わかりました。用意します」
「楽しみにしているわ。引き留めて、ごめんなさいね」
 言い終えたきさらは由為の傍を通り抜けて階段を下りていく。揺れる紅い髪と背中を見送りながら気を引き締めて、自室に戻ることにした。

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