花園の墓守由為編 エピローグ

 此岸にいる水上と連絡を取り終えた。
 衛は急きそうになる足を落ち着かせながら、彼岸の全員が集まっているだろう食堂へ歩いていく。扉を開けて入れば、予想通りにそろっていた。
 七日は椅子に座りながら窓を見つめていて、きさらも座っているがうつむいたまま指先を持て余している。変わらないのは貴海とファレンだ。
 いないのは、由為だけだ。
 誰よりも明るく笑いながら、彼岸のことを考えてくれていた少年だけがいまここにいない。
 水上から聞かされたことを思い返しながら、衛は腕を組んで座っている貴海に近づいた。正面に立って問い質す。
「由為君に世界を救わせたというのは本当ですか」
「ああ」
 返事が否定ならば軽蔑しただろうが、肯定であっても腹立たしいことに代わりはなかった。貴海は分かっていた。由為の決意も行動も、その結果まで。
「話はある程度聞きましたが……。だとしたら、迎えに行かせてください」
「どこにいるのかわかるのか」
「彼岸にいないのなら此岸でしょう。水上さんに案内をお願いします」
「だとしても、君には行けない。行ける可能性があるのは俺だが、俺は彼岸から離れられない」
「ファレンさんがいるからですか」
 自分の無力さと、相手の融通のきかなさ。両方が、苛立ちを誘ってくる。いまにも出てきそうな罵声をひっこめながら、衛は貴海に嫉妬と嫌悪を抱いている自分に気がついてしまった。
 おそらく衛の感情を察しているだろう貴海は怒りも哀れみも見せなかった。淡々と肯定だけを返してくる。
「そうだな。ファレンがいるから俺も彼岸から離れられない」
「だったら、なんで由為君に世界を救わせるなんてしたんですか!」
 由為が望んだことだとしても、自己犠牲を伴う行為ならば、止めなくてはならなかった。由為はまだ十五の少年なのだから。少しだけ大人である自分たちが危険を引き受けなくてはならない。己を犠牲にすることの重さを理解していなかったから、軽々しく自分の価値を捨てることができた。
 だけれど、この場にいる全員が由為のことを止めないどころか、由為の願いを理解して世界を救わせた。その事実を衛は理解できなかった。
 何よりも自分だけ外に置かれていたというのに、近づこうともしなかった甘さが悔しくてたまらない。
 沈黙が続く。
 これまで一度も使われなかった屋敷の鐘が、からーーんと鳴る。
 衛は貴海に詰め寄るのを止めて七日と一緒にエントランスホールへむかって走って行った。
「由為君でしょうか」
「そうだといいけど」
 急停止をして、扉を開ける。後ろからきさらや貴海、ファレンも遅れてきた気配がする。
 完全に開かれた扉の向こうでは風が吹いていた。青と白と赤の花園と紺の空を背景にして、目を閉じたままの由為は抱えられている。
「はじめまして、六番目の管理者こと弦です。滅びた此岸から由為くんをお届けに参りました!」
 にこりと曇りのない笑顔で、彼岸の管理者の役割を理解している弦は言いきった。
 吹きすさんでいる風が吉兆か凶兆なのかは分からないまま、彼岸の花はただ慎ましく揺れている。

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