無音の楽団リブースト! 4

三月十二日

 顔を見合わせたままだったカクヤとレクィエだが、再び宿帳を見ると「サレトナ」と記されていた。
 何が起きているのかは不明だ。不明だが書かないと先に進まないのでレクィエは宿帳に自分の名前を記した。
「そういえばレクィエってどこで字を勉強したんだ?」
「素敵なお姉様たちが集うところでさ」
 説明されてもカクヤは首をかしげるばかりで、レクィエは自分たちのリーダーにはこういったジョークが通じないことに、苦笑と小さな落胆を覚えたようだ。
 だがしかたない。カクヤは郊外で一般市民の育ちをしてきたため、美しい女性が集うところと喩えられても、あの場所は浮かばない思考をしている。
 これを読んでいるあなたは「あの場所」がどこであるかは、読み進めていけばすぐにわかるはずだ。察しの良い方はすでに「あの場所」が「どこか」も読めているかもしれない。
 そのあいだにもレクィエは宿帳に自分の名前を記入し終えた。
「だが俺はカクヤと合流しなくては『沈黙の楽器亭』に来られなかったというのに、どうしてここにサレトナの名前があるんだ? サレトナはもうここにいるのか?」
 レクィエの話を聞いたカクヤが宿の親父と娘にサレトナのことを尋ねる。
「あの跳ねっ返り娘は、いまここにいないな」
「あの落ち込んだ方は、すでにここを出ていかれました」
 サレトナも「無音の楽団」の仲間たちを探しながら歩き回っているのだろうか。
 宿で手に入れられたヒントは、サレトナもこの街にいた、もしくはいるということだ。
 カクヤはいることを信じてまた街に飛び出した。レクィエも続く。
 いま隣を歩くのが、探している少女ではなく別の仲間であることに不思議な気持ちになりながら、カクヤは話を始めた。
「信じられないかもしれないが、俺は五人の仲間の存在を知っていた。なのにサレトナの名前は宿帳に出るまで全く浮かばなかったんだ。俺は彼女を守ってやると言ったのに、なんて情けないことだろう」
「まあそんな気に病みなさんな。ほら、俺に字を教えてくれるような素敵なお姉様たちが集う場所に来た」
「俺たちの仲間の名前は」
「ソレシカ」
 レクィエがぽつりと呟くと、カクヤは手を打った。
「ソレシカ! そうだあいつのことは覚えているぞ。赤い髪と瞳が目立つ頼りになる仲間だが」
「あそこだ! ソレシカがいる!」
「なんだって」
 カクヤは娼館から出てきたソレシカに大きく手を振ったが、レクィエは慌てて止めさせようとした。すでに陽は落ち始めている時間だが、仲間に娼館にいたと知られたくないだろうという思いやりだった。
 だが、気付いてしまう。
 ソレシカはカクヤとレクィエを見つけて大きく目を見開き、走り出した。
 気付かれた二人といえば。
 なぜか。
 反射的に。
 逃げ出していた。
「待て! お前たちは無音の楽団のカクヤとレクィエだろ! 俺も捜していたんだぞ!」
「じゃあなんで娼館にいたんだよ!」
「情報収集の基本だろ馬鹿それでも盗賊か!」
「そだな」
 レクィエは足を止めたが、止めそびれたカクヤは派手にすっころんだ。
 敏捷では劣るソレシカはようやく二人に追いついたところで、見上げる。
 行って戻ってしまったのか、三人は気付くと「沈黙の楽器亭」の前にいた。
 これは都合は良いと、ソレシカを登録するためにまた宿の中に入る。だというのに宿の親父も娘も怪訝な顔は全くしていない。
「なんだこれは!」
 ソレシカが記入した宿帳を見て、二度目の叫びが上がった。
「タトエの名前まで出ているぞ!?」
 カクヤの驚きにペンを動かす手を止めた。なんだなんだとレクィエものぞき込む。
 宿帳には五人目の仲間として、ソレシカの隣に「タトエ」が浮かび上がっている。その字をソレシカは、破るように、食い入るように眺めていた。
「たと、え」
「そう! 俺たち一番の星、タトエだ!」
「誰だそいつ」
 まさか熱心一途にタトエへ愛を囁いていた男とは思えない言葉に、カクヤは困惑して、レクィエは頭痛を覚えたようだ。
 何が一体どうなっているというのか。
 疑問を整理することをおすすめしよう。


>5

―――――
 ソレシカがタトエを忘れたという。それは愛に生きる男的に有りなのか!
 タトエが知ったらどうなるか!
 それらも謎だが、とりあえずいまのところの謎。
・なぜレクィエは「沈黙の楽器亭」に来られなかったのか
・どうして宿帳に「サレトナ」と「タトエ」の名前があるのか
・ソレシカは「タトエ」をどうして忘れているのか

 次の話でできるだけヒントを出したいです。
 

 肝心の「無音の楽団」。
 徐々に仲間もそろっているけれど謎も同時に増えていく。
 次に加入するのは、そして出てきていないのは誰になるのか。


 そんな「無音の楽団?」に現在加入しているのは


現在の無音の楽団? の図

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