無音の楽団リブースト! 1

 これは記録。
 カクヤから始まり、最後の仲間との再会に至るまでの短い日誌だ。
 だから主人公はこの日誌を手に取って解釈するあなたしかありえない。



 三月九日

 カクヤが目を覚ます。
 彼は初めて見たという寝室に、自分がこれまで何をしてきたのかを思い出そうとしたようだが、どうしてか思い出せない。混乱している。きっと彼の記憶が欠落しているのではなく、カクヤという存在が時と場所を飛躍して寝室にいるのだろう。
 カクヤはサイドテーブルに手を伸ばすと一枚の紙に触れた。取る。
 紙には一文が書かれてあった。

「仲間を探せ。無音の楽団を再び鳴らすんだ」

 なんのこったとカクヤは思うが、とりあえず寝室を出た。
 寝室だと思っていたが、そこは宿屋の二階の部屋だった。カクヤは階段を下りていく。
「よお。起きたかねぼすけ」
 カクヤはまだ名前を知らない、頭頂部は寂しいが体格の良い親父が声をかけてきた。
「お体は大丈夫ですか?」
 事情を知っているらしいクランベリージャムの長い髪の少女が心配げに話しかけてきた。
 返事に困ったようだ。カクヤは曖昧な笑顔だけを浮かべて、少女に案内されるままテーブルに着く。
 そうして親父から聞いた話は突拍子のないものだった。
「なんてこった!」
 喜劇の道化さながら大間抜けに言ったのだが、カクヤの現在いる宿「沈黙の楽器亭」の親父は笑うばかりだ。
「なんでもあるさ。ここからな」
 それは真理を突いている言葉だろう。
 カクヤが主役、そうだ。ここを忘れてはならない。カクヤは紛れもない『無音の楽団リブースト』の主役であって、読者に情報を伝える視点ではない。
 だからこの小説が一人称という甘い期待はここで消え去ることになる。
 最初にも書いたとおりこの物語の視点となるのは、いまこの文を読み進めている「あなた」だ。
 さて話を戻そう。
 カクヤは「無音の楽団」という冒険者一行のリーダー。正しく言うのならば、リーダーだった。
 だがいまは一人だ。
 そうなった経緯には一つの奇怪な冒険が関わっていた。

2

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外付けHDDが破損して、一からやり直しになった無音の楽団を追いかける二人称小説です。
まずはリーダーのカクヤから。

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