『江水散花雪』2022年3月10日昼公演 感想

 ミュージカル刀剣乱舞『江水散花雪』 感想
 ネタバレ注意!

あらすじ

 大包平が隊長となり、小竜景光と南泉一文字と共に徳川十三代将軍が治める江戸へ派遣された。その際に、大包平達は時間遡行軍に襲われる二人の男性を助けることになるが、助けた人物は片方は井伊直弼、もう片方は後の吉田松陰という、本来の歴史ならば出会わないはずの二人だった。
 舞台は本丸に移り、山姥切国広は審神者から命を下される。山姥切国広は「あの時代を知っている刀剣男士が欲しい」と審神者に言い、同行者として肥前忠広が選ばれた。
 二人もまた大包平達と同じ時代に赴く。井伊直弼の下に滞在する大包平と南泉、吉田松陰と共にする小竜。山姥切はなぜか傘作りに勤しみ、肥前は焦れる。ばらばらに行動する刀剣男士たちに大包平は頭を抱えるばかりだった。

ストーリー

 情緒破壊 ☆☆☆☆
 自由度  ☆☆☆
 展開   ☆☆☆☆☆
 どうして一部の刀剣男士は報連相しないのか ☆☆☆☆☆

 今回の物語は新しいステージに進むための、布石の物語であり重要な始まりではだったのないか。
 全体の結果としては、今回の舞台は任務に失敗した。だが、大包平と山姥切、南泉と小竜、肥前と和泉守兼定がそれぞれ得たものがある。
 大包平はかつて隊長であった山姥切から「隊長の役割」であることを教えられた。
 南泉と小竜は歴史を正しく守ることの重要性を、井伊直弼と吉田松陰のこの時代の末路を見て理解した。
 肥前は和泉守によって、かつての主に対する思いの妥協点を知ることができた。
 だから、この時代の任務は失敗となり、修正不可能な時代と放棄されたものになってしまっても無駄ではない。歴史の流れに負けてしまっただろうが、無意味ではない。
 その流れを見られたことにより、私が初めて観劇したミュージカル刀剣乱舞が『江水散花雪』で良かったと心から思えた。

 物語の細部としては、ミュージカル刀剣乱舞の世界観が少しではあるが、浮き彫りになっていく構成であった。
 最初の時間遡行軍に襲われた存在、井伊直弼と吉田松陰を助けたことが、修正不可となり、放棄される歴史に繋がるという結果をもたらすとは観劇当初は思わなかった。
 時間遡行軍を倒してしまうと間違った歴史に進むというのは、本来の刀剣男士に与えられた任務が矛盾し、状況に応じて思考し判断しなくてはならない過酷さを示している。本来ならば審神者が刀剣男士の行動を判断すべきなのだろうが、時代遡行をしたら審神者の力や状況把握ができなくなる可能性を見せられたと考える。アニメ『活撃刀剣乱舞』では審神者も時代遡行ができたが、ミュージカルでは異なる設定と考えるのが自然だろう。
 話を戻すが、最初に井伊直弼と吉田松陰を助けなければ、どちらにしろ正しく歴史は進まずにどちらにしろ詰んでいた状況だ。ここに、時間遡行軍の策略が複雑化している現状が描かれている。初期の頃の敵を倒せばいいといったシンプルな目的で終わる話ではない。
 その後は出会わなかった二人、吉田松陰に死を与えて、また反逆される井伊直弼と吉田松陰の心温まる交流が描かれ、歴史は争いを迎えることなく穏やかに、大政奉還や開国などが進んでいくように見えた。今回の観劇者を代弁する南泉の視点によると、『悪いことなのかにゃ?」という展開だ。特に時間遡行軍にも襲われず、穏やかな時を過ごす刀剣男士達を見ていると確かに、何が問題になるのかがわからなくなってくる。
 だが、改善すべき点を見つけられずに様子を窺っていたことすら大きな歪みとなる。徳川十四代将軍は徳川慶喜と歴史が変貌した。結果、肥前がかつていたとされる世界と同じく、政府の判断により修正不可能な時代となり、放棄されてしまう歴史になるという結果に繋がった。そうなると、人は怪物と化し時間遡行軍も刀剣男士も出口のない歴史に閉じ込められる。刀剣男士も、澱んだ池の肴として放棄される。
 この展開で『ミュージカル刀剣乱舞』の世界の枠がさらに一段広がった。いままでは審神者、刀剣男士、その時代の人物が主な登場人物だったが、審神者の上に「政府」という存在を示された。
 和泉守はその政府が「正しいかどうかはわからない」と言う。これは、今後の『刀剣乱舞』という作品の展開にも多少なりとも影響を及ぼす可能性がある。刀剣男士たちに、自分たちを切り捨てられる、切り捨てる可能性がある審神者や政府にどういった行動を取るかという新たな選択肢が生まれた。
 物語の終わりとして、放棄された世界に閉じ込められた刀剣男士たちは無事に本丸へ帰還し、正しき歴史の流れを見守ったと思われる描写で締められたが、残された謎は多い。けれど、私はその謎を回収すべき伏線だけで終わらせず、解釈の余地となる余白になると良いと考えた。
 刀剣男士達も毎回悩みながら任務を終わらせている。歴史の正しさと向き合わされている。ならば、審神者たる私たちも望む歴史と違っていても、戻すことのない歴史と向き合いながらより良い未来を考えて、想像していきたいと今回の物語を見て、強く思い、泣いた。

舞台の疑問
 今回のストーリーで私の中で疑問として残ったのは以下の点だ。

・どこまでが審神者の命でどこまでが山姥切の独断か
・はじまりの刀は誰か/折れた刀は誰か
・放棄される世界と残される世界の分岐点
・放棄された世界の刀剣男士

・正しさとは何か

 一つずつ答えていくと、おそらく放棄される世界に入った大包平、小竜景光、南泉一文字を助けることが審神者の命で、そのために自分が放棄された世界に残されるまでが山姥切の意図だと受け取った。だがここもはっきりとはわからない。
 また、はじまりの刀と折れた刀については今後の展開が待たれる。私としてははじまりの刀は展開的に、山姥切か加洲清光となるがいまだ登場していない歌仙兼定の立ち位置も気になる。
 放棄される世界と残される世界の分岐点は、今回は将軍が変わったことで決定づけられたが、もしかすると取り返しのつかない決定が起きた時点で決まる可能性がある。いくつも放棄された世界があり、そこに残る刀剣男士がいるとしたらあまりにも過酷だ。

 最後の「正しさとは何か」。これが今後の鍵となる疑問になりそうだ。
 それは、和泉守が「政府が正しいのかもわからない」と言い、それを確かめるために生き残ることを決めたからで、ミュージカル刀剣乱舞の新しいスタートとして相応しい疑問ではないだろうか。
 刀剣男士は刀に付いた神だ。彼らは従うだけの物から思考できる存在となり、多くの困難に立ち向かってきた。
 これからに期待する。

キャラクター

和泉守兼定
 今回の最推しで、いつ出るか、どこで出るかと期待して。もしくは敵側に……? と途中から恐々としていたが。
 まさか極となるなんて。
 聞いていない。
 知らない。
 初めて見たけれど極衣装のインパクトと豪勢さすごいですね。髪の長さがすごくて、動く度にふわりふわり揺れていました。猫がじゃれるね。よく反応しなかったね南泉。
 でも、ミュージカル刀剣乱舞の初極が兼さんというのはとっても嬉しかったです。原作のゲーム以外で臨場感を持って修行がどういうものだったか、どう変わったかを語り、歌うシーンは切々としていて胸に迫りました。
 堀川君をはじめ、新撰組ではかわいがられる……? ことの多い兼さんでしたが、今回は肥前君をはじめ四人の刀剣男士を見守り、支える姿が見られました。
 特に、主であった岡田以蔵を斬ってしまい、打ちのめされる肥前君に「泣けよ。俺は泣いたぜ……一度だけな」と言ったところ。
 ああ、最初の場面の回想は、兼さんと堀川君だったな。堀川君だけが兼さんの涙を知っていて、それを打ち明けられるほどに兼さんは成長したのだなと涙が零れました。抱きしめる姿も優しさに満ちていました。

 結構舞台に近い席でしたので、膝を曲げてかがむシーンやポニーテールや長い足など、場面によってよく見えたのも今回は嬉しかったです。推しが近い。
 あとはかつての主という花が、どういう咲き方をするかを望むか歌った場面。
 修行を終えた兼さんだからこそ、選べたと思います。生きて大輪の花を咲かせた方が幸せかもしれない、だけれどそれは……兼さんの望んだ花ではない。
 和泉守兼定が愛した花は、京で咲いて北の地で散った。それを受け止めている。
 全てが格好良い、刀です。

大包平
 がんばった! 隊長として本当にがんばった!
 最初からクライマックスを語るけれど、時空の扉をこじ開けられる選択と行動ができるのは貴方だけだ! 刀剣の横綱!
 大抵元気でいることが多いけれど、今回のまだ新刃の刀として右も左もわからない状況に放り込まれながら、全員をまとめようとする姿。山姥切に恥だと言いながらも教えを乞える素直さ。今回の隊長は本当に、大包平さんです。
 間違えてもやり直せる刀、というのは今後とても大切そう。

 あとは序盤の南泉に「寒いなら厚着をしろ」と正論を言えたと思えば、逆に「心頭滅却」のくだりで小竜に揚げ足取られたりが可愛かったです。
 井伊直弼さんに兼さんを紹介する下りが毎回違うんですね。南泉を「猫丸」と名付けたのも可愛いですが、私の回の兼さんへの名付け方は「かねさんじゅうろう」だったと思います。「かねさんじゅう」までは合っていると思うのですけど……。

 とにかく、放棄された世界に陥り敵に襲われて、中傷になってぼろぼろになりながらも立ち上がろうとする演技がすごかった。迫真でした。
 その矜持の高さは憧れるし美しい。
 あと所作の一歩一歩がしっかりとしていて美しかったです。豪快だけれど品があるというか。兼さんの次に注目して観ていました。

小竜景光

 今回、一番つかめなかった方です。
 怪我を抱えながらも黒小竜さんの動きに合わせて声を当てる姿はすごいなと思いました。黒小竜さんの動きも両方すごい。後に書くミュージカルパートでは、完璧に王子様でもありました。
 だからこそ……すごく、本編では自分の気持ちを内に込める刀だとも思いました。
 特に内心を語らずに、かつての主である吉田松陰についていったのは何を見極めたかったのか。もしかすると、真の主という希望を僅かながら、本当に少しだけ持っていたのかも知れません。だからこそ、最後の「多くいる主の一人だよ」が胸に刺さりました。
 放棄された世界を作る一因となり、その一因に自分も関わったと知った時の心情も推し量るのが難しいです。
 主にこだわりがないけれど、求めてしまう。切ない刀です。
 そうそう、旅の途中で流れた水戸学は歌も演出も面白かったですね。ラインダンス……。

山姥切国広
 裏の主役。
 わかっていました。皆を逃がすために、一人残ろうとするのはわかっていました。大包平さんがいて本当によかったですね!
 また今回は傘張りをしたり、草鞋を編んだり、浮世絵をしたりシュールな面を沢山見せながらも内心では拗らせマックスでもありました。
 マイペースな古参刀は手に負えない。
 
 まず登場シーンの歌声がとても綺麗で、でも演技はハスキーでわりと豪胆というギャップが良かったです。
 最初の頃にあの時代を知っている刀が欲しいと言われましたが、長義さんを呼ぶわけにはいかなかったのでしょうね。長義さんには絶対「やれやれ偽者くん……ふざけるなよ」と絶対に怒られていたと思います。今回のシナリオを早めに崩せる仕掛けを、長義さんならできたと思うので。そういったところも、長義さんから学んで今回のマイペースになったのかしらと勝手に想像してしまいます。
 肥前さんや大包平さんに色々聞かれてもはぐらかしてばかり。口下手もあるのでしょうが、もう少しゴールを決めて報連相がんばるようにしようね。あのおじいちゃんもね。

南泉一文字
 キュート枠であり、観客が物語に入りやすくなるためのスイッチとしてとても上手に南泉一文字でいてくれたと思います。
 ひなたぼっこの歌でごろごろする様子や、死ぬはずの二人が死なないで仲良くなれたことを良いことだと疑いなく思えた、素直さと優しさが、今回の後輩分といった印象で微笑ましかったです。
 だからこそ、最後のおっさんこと井伊直弼さんが変貌してしまったときに選択できたことが苦しく、彼もまた刀剣男士なのだと思えました。

 身軽さを表す演技や、お菓子を食べる仕草がとっても可愛い。
 たまに出てくる「にゃ!」も本当に可愛い。
 舞台の貞ちゃんみたいな緩衝材です。大包平さんは苦労しましたけどね。

肥前忠広
 今回の情緒破壊賞をあげたい。絶対にいらないと投げ捨てられるけれど。

 部隊の中では一番真面目に仕事をしていましたね。特に、歴史が変わった余波を防ごうと人斬りに手を染める思考ができたのは、特命調査の特殊な境遇故でしょうか。本来の刀剣男士はかつての主に関わってはならない。
 だけれど、まっとうになっていき自分を必要としない岡田以蔵さんを見かけた時の心情は、苦しかったでしょう。否定されたあげくに、放棄された世界で狂ったかつての主にとどめを刺す……それでも泣かないように兼さんに声をかけるまで、こらえていられたのが肥前さんの強さだと思います。
 あと、山姥切さんに必要だというから今回呼ばれたのに、ほとんど何も説明してもらえなかったのが……悲しいですね。
 いろんなところでツッコミをするあたり、律儀だとも思います。

ミュージカル

 六人→小竜さんと南泉さん→兼さんソロ→MC→大包平さんと肥前さん→山姥切ソロ→太鼓→漢道→時間遡行軍→刀剣乱舞
 というセトリだったでしょうか。曲名がわからないのがお恥ずかしい。

 まず、皆登場しているときに小竜さんが全体へ手を振っているのがすごい柔らかくて王子様……な雰囲気でした。小竜さんらしくて素敵。
 肥前君は皆がステージ中央に集まっても、けっと端で座っている姿がとても肥前君。それが許されるし、その後の歌を「楽しめばいいんだろ!?」が輝いていました。
 山姥切さんは本当に歌声が綺麗で、前に立たされたときに「綺麗とか……言うな」「誰も言ってないだろ」「心の声で聞こえた」が面白かったです。山姥切さん、フードみたいに可愛い衣装で素敵でした。綺麗だよ!
 南泉君はダンスが本当に元気で、動きが可愛くてさりげなく小竜さんをサポートしているのが良かったです。一文字一家も固唾を飲みながら見守っていたことでしょう。
 大包平さんはコール&レスポンスをしました。MCの時に「俺はここから一歩も動かん!」と仁王立ち。そして会場の右側から、中央、左側へ拍手をするように呼び掛けて、沢山の拍手を呼んでいましたね。
 そして、私の推しの兼さん。ソロが来るとは思わなかったので、頭真っ白になりながら聞いていました。いつもの力強い歌声とは違って、繊細な曲調にこれまでの変化を感じました。MCを仕切るのと、腰から下、背部に長いひらひらがあったのがまさに極! という印象です。
 でもこれから、真剣乱舞祭も極で来るの兼さん。
 ……楽しみですね!
 終わりの方の漢道も、とても格好良く六人とも歌ってくれました。
 ミュージカルは本当にあっという間で、濃密なのにインパクト強すぎて覚えていられないのがもったいないです。円盤買いましょう。

締め
 さて、長い感想もこのあたりでお終いです。
 お付き合い下さり、ありがとうございました。
 最初に書いたとおり、初めて現地で観るミュージカル刀剣乱舞が『江水散花雪』で良かった。そう思える、とても素晴らしいミュージカルでした。
 これからも、また観に行きたいです。

 それでは。

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