デートかもしれない

お借りしました。
 三冠夏さん(@moru0101


『夏さんへ
 メールとお誘いありがとうございます』

 古蝶は珍しくスマートフォンを眺めていた。
 しばらくしてから、タッチパネルを指先で叩いては消すことを繰り返す。スワイプさせる。やっぱり消す。そうしているあいだに理想の返事が生まれないかと願うのだが、どうしても自分の言葉は残らない。どこからか借りてきた薄い返事になってしまう。
 それは、昨日の昼に届いた三冠夏の真摯さを裏切るものだから、曖昧な言葉で妥協したくなかった。
 自分の本心。伝えたい想い。
「ねえ。私は、夏さんをどう思っているのかしら」
 言葉にして問いかけてみても返事はない。当然だ。見つかるものではなく、自分で選ばなくてはならない問答なのだから。
 古蝶は自室の椅子に腰掛ける。柔らかな青い布が張られた椅子の上で膝を抱えてしまう。
 家は和風の造りだが、リフォームをした際に古蝶の部屋はフローリングになり、洋風にまとめている。鏡台や化粧品、アクセサリーといった女性として欠かせない物と本は多いが、年齢もあってか人形やぬいぐるみなどといったものは一つもなかった。代わりに花を欠かさず花瓶に添えて世話をしている。
 古蝶は机の上に置きそうになったスマートフォンをまた手元に戻して、友人にメッセージを送る。時間が空いていたのかすぐに返事がきた。
 直後、スマートフォンが振動する。
『古蝶!? あんたまだ迷ってるの』
 呆れたメッセージに「だってたぬき」のスタンプを返したら、一瞬もしない間に既読の文字がついてきた。その後の長文は叱咤の言葉が続き、古蝶の優柔不断を怒っている。怒ってくれる友人がいることをありがたいと思いながら気持ちはますます下がっていった。
 十二行のメッセージが終わる。また、ぴょこんとフキダシが跳ねた。
『古蝶は夏さんとどうなりたいの』
「それは……少しずつ仲良く、知っていけたら」
『どんな風に』
「婚約者として」
『そうしているあいだに誰かに取られてもいいのね』
 その言葉は迷いを一撃で爆破させた。
 古蝶は滅多に迷わない。他人が流れて欲しいところに流れて、最後に意地を押し通すのがいままでの処世術だ。あまり好き嫌いのこだわりはないが、なかったが、夏と出会って変わり始めた。
 夏さんは取られたくない。
 古蝶の滅多にないはずの、最初から言いたいわがままが、あの日偶然にお見合いをした青年の笑顔を誰よりも近い場所で見ていたいということだと、ようやく気付けた。
 友人に感謝ラッコのスタンプ。
 そして気合いの入った『ありがとう。がんばるわ』を送ったら親指を立てたアライグマのスタンプが幸運を祈ってくれた。
 微笑み、今度は夏あてのメールを開く。
 そういえばまだ夏さんのメッセージアプリも知らないわ。今度聞こう、と古蝶は決めた。

『夏さんへ
 メールと、お誘いありがとうございます。今度のお出かけの件ですが、喜んで。楽しみにしています。
 こうして打ちながらも、私のメールもちょっと硬くなってしまいますね。恥ずかしいのに少し嬉しく感じてしまいます。
 ……また、お話したいです。二人きりで』

 そして送信してから古蝶は自室のベッドで横二回転半を七回ほど決めた。
 頭の中では、恥ずかしさと今度の出かける時の衣装決めで頭がいっぱいだ。
 この前に買った、珍しく蝶柄ではない薄紅色のワンピースに白のフリル付きジャケットはあざといかしら。それに夏さんはお上品に決めた方が好印象だから、ジャケットはなしにして少しフェミニンなスプリングコートに、だとしたらベージュのタイツに青のパンプスは外せない。それともたまにはパンツスタイルもありかしら。いえ、それは私的にだめね。
 そこまで考えて、落ちついてから息を吐く。
 まさか自分がこんなに揺らされることがあるとは思いもしなかったが、それもまた悪くない。
 三冠夏という青年に振り回されて楽しいと素直に微笑むことができた。
 さあ、決戦の日は近い。
 古蝶はクローゼットを探険することと部屋の掃除しようと決意した。

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