前提
馬車で居合わせた陰のある女性冒険者と貴海の短い会話。
女性冒険者は懐いていた祖母の葬儀に向かっている途中だった。最期に会えなかったことを悔やんでいる。
その女性に貴海が言葉をかけるとするのなら、から始まります。
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自分が未熟なお節介者だとは、誰に言われなくとも自覚している。
だが、それでも同じ馬車に揺られている女性のうつむいた陰を見てしまっては、何も言わないでいることはできなかった。
貴海はしばし考えて、ゆっくりと間を作りながら、言う。
大好きな祖母に冒険者となることを支えられながらも、何も返せなかったという女性に。
「あなたが冒険者として、皆のために頑張ったらいいと思う。それが、おばあさんへの恩返しになるさ。きっと」
短いやりとりをいくつかして、ようやく、影を振り払って晴れやかな表情を見られた。
貴海はその笑顔に安堵する。
同時に深く関わらない、通りすがる冒険者だからこそ言えることもあるのだということも、知った。
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馬車がカルバチアへ到着する。
降りてからも手を振って去っていく女性を見送っていると、花鳴夜で世話役を務めてくれているクーシンが隣に立っていた。
「ご立派なことをきちんと伝えられて。野良貴族もだんだん板についてきたのかな」
「多少は野生のことも学びましたから」
貴海はかつて貴族の子弟であった。丁重に仕立て上げられた箱庭でしか、生きられないくらいに。
とある理由により家督を放りだして、その後はクーシンたちに拾われて世間について知っていっている真っ只中だ。あんまり人に偉そうなことは言えない。
それでも。女性に言ったことに嘘はない。
自分も生きた証を、軌跡を遺せるような人にありたいと気づかされたくらいには。
「なんですか」
「なんでも」
楽しそうなクーシンに納得いかない気持ちになりながらも、仲間に呼ばれたので歩きだす。
その背中を「七十点くらいかな」と呟きながらクーシンが見守っていることも、貴海は知らない。
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シレイユ様が作成したシナリオをお借りしました。ありがとうございます。
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